前回の話はこちら。
転職エージェントとの面談を経て、自分は人材の価値という意味では想像以上に厳しい状況に置かれていることを知った私。
鉄道業界に身を置き続けてきた人間は、鉄道業界以外では全く役に立たないスキルばかりを習得していがちです。
そのため他の業界へ転職しようとした時には、何の取り柄もない無能扱いをされることに気付かされることとなりました。
だったら同じ鉄道業界で転職すればいいと考えるかもしれませんが、実はそんな単純な話では済まないのがこの業界の難しいところです。
今日は鉄道業界間での転職活動の実態について、私の知る限りのことを書いてみようと思います。
まず鉄道会社から鉄道会社への転職というのは現実的には非常に難しく、特にJR会社間での転職は不可能に近いと言われています。
これが何故なのか明確な答えを提示してくれる人間は社内にも居ませんでしたが、現場では色々な説がありました。
代表的なものは「人材の引き抜きを疑われることを避けるため」というものでした。
鉄道会社の運転士は1名あたり約1000万円という、多額の養成費を掛けて育てていると言います。
そういう人間が早期に会社を去ってしまえば、会社としては投資が回収できず損をしたということになります。
一方、免許持ちの人間を転職で引っ張ってくることが出来れば、採用した会社にとっては1000万円の養成費を掛けずに運転士を手に入れることができるわけで、非常にお得です。
しかしこれをやることでJR他社の運転士を引き抜いたと疑われれば、JR各社同士の関係性が悪化することで様々なリスクも抱えることになります。
そのため暗黙の取り決めがあり、私が社員だった当時はJR会社間の転職はほぼ不可能と言われていました。
仮にJR会社間での転職を達成できたとしても、そんなことが出来る人間は訳ありだったりして、新たに入った現場ではきっと「あいつは前の会社で何かやらかして辞めてきたんじゃないか」と噂される可能性が極めて高いと思われます。
一方、私鉄への転職はどうでしょうか。
資金力の小さい地方私鉄などでは、背に腹は替えられずに免許持ちの人間を求める場合もあるかもしれません。
しかし、小さな私鉄会社はそもそも求める人数自体が少ないため、大きな鉄道会社からの転職者の受け皿となるにはあまりに小さいように思います。それに地方私鉄では電化されていない路線も多く、電気車の運転免許を持っていたところで何の役にも立ちません。
ディーゼルカーを運転するには内燃車運転免許が必要で、電気車の免許しか持たない人間は結局は新たに免許を取り直すことになるのです。
もっとも、貨物でもディーゼル機関車を運転するケースはありますから、全運転士の中の3割くらいは内燃車運転免許を持っていたように感じます。そういう人間であれば、ディーゼルカー主体の地方私鉄へ行くという道は確かにあるのかもしれません。
では大手私鉄の場合はというと、そもそも免許持ちの人間を嫌う傾向があるようです。
これはなぜかというと、聞いた話ではありますが他社のルールを覚えてきた人間を取ると、逆にその知識が教育の邪魔になったり、勘違いで事故を起こす原因になるからだそうです。
下手に知識を持って入ってくれば、前の会社の知識をひけらかして職場で偉そうにしたりと、会社の風紀を乱すリスクも存在します。
そのため目先の1000万円をケチることよりも、まっさらな人間に1000万円を投資して、しっかり自社のルールを理解して仕事をしてくれる人間を育てる方を取るというのが、資金力のある大手私鉄の一般的な考え方のようです。
つまり、中途半端に他社の鉄道ルールを覚えている元運転士の人間は、他の鉄道会社から見たらゴミデータが沢山インストールされた中古パソコンのようなもので、全くもって魅力の無い商品なのです。
鉄道業界は一度辞めると再就職が難しいと言われるのはこのためです。
私のいた職場にも他の鉄道会社への転職を検討している同僚がいましたが、採用試験は受けたものの結局採用されず、転職を諦めたというケースがありました。
ですが、これまで語ったことはあくまで私が現役社員だった時代の話です。時代は変わっていくもので、今後もそのような状況が続くとは限りません。
私が退職する直前、JR北海道がどこかの転職情報サイトに求人を出していたという話を聞いたことがありました。北海道新幹線開業に合わせて免許持ちが欲しいんじゃないかと噂されていましたが、その真相も今となっては分かりません。
また大手私鉄であっても、保安装置がATOになっていてほぼ自動運転化されている鉄道会社では、運転に関する知識技術がそこまで求められないためか、手っ取り早く免許持ちの転職者を集めてしまうと聞いたこともあります。
いずれにしても、鉄道業界を退職した人間が再び鉄道業界へ再就職する道は非常に狭き門であり、あまり現実的ではないと思います。
一度入ったら定年退職までやり遂げるか、そうでなければ若いうちに他業界で通用する資格やスキルを取得し、なるべく早く身の振り方を決める。
これが鉄道業界に身を置いた人間が考えるべきライフプランなのではないかと感じております。
私は鉄道の運転の仕事はもう懲り懲りだったため、転職を決意した段階でも他の鉄道会社を受けるということは全く考えませんでした。
しかし前回の記事の通り、他業界への転職も厳しい人材に成り下がっていたため、転職活動は困難を極めていくことになるのでした。
次回は話を戻し、引き続き転職活動をした時のことについて語っていきたいと思います。
この話の続きはこちら。
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あなたのブログに出会えて生きる強さを学ばせて頂きました。
>匿名さん
犯罪者が書いたこのようなブログに価値を見出して下さり、ありがとうございます。
生きる強さというにはあまりにネガティブな内容ですが、それでも人生を全うするまで、生きる道を選び続けたいと思っていることに変わりはありません。
ぜひ今後もお読み頂けたら幸いです。
鉄道業界に入ったら定年までやるか若くして転職するか
よそで通用しない、インフラなのである程度安定している
よくも悪くも離職率が低いとはいったものです
しかし貨物の運転士はよそではまるで通用しないいらない人材
知らなかった世界が知れて興味深いです
>西日本さん
そうですね、離職率が低いのは決してホワイトな仕事だからではなく、他所で潰しが利かないので辞めるに辞めれないという側面は確かにあると思います。
鉄道一筋でやってきて30歳を過ぎてしまった先輩方は、口を揃えて「他でこの給料もらえる仕事なんて無いじゃん」と、諦めたように言っていました。
独身の20代ですら厳しい転職活動でしたから、その年齢になればお嫁さん、子供、家のローン等、色々抱えて余計に身動きが取れなくなっていることも多いため尚更です。
JR貨物へ転職を考えていて色々と調べてるうちに貴方のブログに出会えました。
おいおいマジかよ…と思える内容でビックリです。
友達のお姉さんの旦那さんが地方私鉄からメトロに転職したという話を聞いたのでここまで同業に転職するのが大変なことだとは思いませんでした。
>ななっしーさん
コメント頂きありがとうございます。
私鉄から私鉄への転職というのは、私が業界に居た頃も時折聞いたことがありました。全く根拠はありませんが、JRが絡むと鉄道業界の転職関係はしがらみがあるのかもしれません。
私がJR貨物に勤めていたのも気付けばもう5年以上前で、会社の状況は当時と変わっている可能性もございます。転職をお考えでしたらご自身の目で会社を見極めて頂き、現在お勤めされているお知り合いを作ってお話を聞かれるのが最も確実かと思います。転職活動に水を差してしまうような記事を書いており申し訳ありませんでした。