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会社帰りに食事に誘われた結果、軟禁され ~労働組合の闇~

前回の話はこちら。

未修了の新入社員研修 ~お荷物社員の行方~

あなたの会社には労働組合は存在するでしょうか?

その労働組合は、ちゃんと本来の役割を果たしていると思いますか?

 

労働組合は会社で働く社員が不利な立場にならないよう、社員同士が集まって作られる組織です。

正しく機能していれば労働組合はあっても困るものではないし、むしろありがたいこともあると思います。

JR貨物の労働組合は主なものでは3組合も存在しています。

・JR貨物労働組合
・国鉄労働組合
・鉄道産業労働組合

国鉄民営化後は、JR貨物労働組合が最も大きな組織となっていて、社員の9割弱がこの組合に所属しています。

各々の組合がそれぞれの目的にしたがって活動しているのですが、各組合同士の関係は非常に悪く、複雑な関係であることを後から知りました。

 

GW明けに各職場へ配属されることになった私たちですが、最終日には昼間に終了となって名古屋駅までバスで送ってもらえることになりました。

その道中で入社同期のうち転職組の年長者から全員に向けて話があり、この後先輩たちが昼食に招待してくれているから、名古屋駅に着いたらそのまま帰らずにバスの外で待機して欲しいと言われました。

名古屋駅でバスを降りると、既に3~4人くらいの若い先輩が待っていました。

何の疑いも持たなかった私たちは、荷物を持って案内されるがままに近くのビルの中に通されました。

そして食事会場になっている部屋に入ると・・・

 

なんと会場内には、「歓迎 JR貨物労働組合 入社おめでとう」と書かれた横断幕が張ってあったのです。

 

部屋は会議室みたいなところで、長テーブルを宴会席のように組み合わせた状態となっていて、その上にお茶とお弁当が置かれていました。

なんか変だな・・・

そう思いましたが、有無を言わさず席に着席させられ、全員が入ると扉は締め切られました。

 

先輩が食事に誘ってくれたなどという言葉は嘘ではありませんが、実際は新入社員をJR貨物労働組合に入会させるための口実だったのです。私たちはまんまと乗せられてしまいました。

 

歓迎と書かれた文字とは裏腹に、会場はどこか重々しい空気で、正直怖いというのが本音でした。

着席した後、年配の組合幹部のような人が前に立って話を始めます。

どんな話をしたかはよく覚えていませんが、入社おめでとうございますという挨拶のあと、今日は皆さんにJR貨物労働組合がどんな組合か知ってもらって、是非今日中に入会して帰って欲しいと思って席を用意した旨の説明があったと思います。

その説明は数分で終わり、要するに今JR貨物で一番大きい労働組合だから、ここに入れば間違いないみたいな話だったと思います。

 

目の前に弁当が置かれていたので食事を取りながら聞けばいいのかと思いきや、驚くことに先に入会届に名前を書いてから弁当を食べるように言われました。

有無を言わせない半強制的な状況です。この場で入会を決意しなければ、食事も与えないしここから出さないぞ・・・。そう言われているように感じました。

 

本来労働組合に入るかどうかは社員の自由だし、入るにしても全ての組合の話を聞いてからどこを選ぶか個人の判断で決められるはずです。

それが閉鎖的な空間に連れ込まれて、弁当を食べる前に名前を書いて欲しいなどと言われれば、まだ入社1ヵ月も経たない新入社員の私たちは、抗議する間もなく、言われるがまま書いてしまうに決まっています。

新入社員研修の最終日、わざわざ名古屋駅まで送迎バスが出るなんて妙に親切だなと思ったし、行き先も最寄りの稲沢駅ではなかったあたり、果たしてこの流れは労働組合だけの意思で仕込まれたものなのか疑問にさえ思いました。

 

労働組合活動は会社の勤務時間内で行ってはいけないという決まりがあるので、新入社員研修中は組合に関する話は全くといっていいほど無く、この会社には3種類の労働組合が存在すると一言案内されただけでした。

物々しい場の空気に押されるように、私たちは渡された用紙に名前を記入することになりました。

弁当は冷たくなっていて、美味しいと思える状態ではなかったし、そもそも味など気にしていられないくらい物騒な雰囲気だったことを覚えています。

 

しかし、驚くことに一人だけ記入を拒否する社員がいました。

「私は他の組合に入るので書けません。」

にこやかで控えめな言い方でしたが、その奥には確固たる意志があることが分かり、先月まで高校生だった18歳の子がこの場でそんな発言をすることが出来るのは正直すごいと思いました。

折しも彼は新入社員研修中に仲良くなった人で、後から本人に聞いたところ、父親が同じ会社にいて違う労働組合であること。そして組合の現実は十分聞かされているから絶対に入らないことにしていたと話してくれました。

 

それはつまり、労働組合の実際を知っていれば、入らないという選択肢を取る社員が多く存在するということでしょう。

各個人が知識を持ち始めて入会を渋るようになる前に、無垢な新入社員のうちに全員入れてしまおうという魂胆が垣間見えたような気がしました。

 

その後数ヶ月してから知ったことですが、先述した労働組合同士の関係が良くないこともあってか、入会しなかったり他の労働組合に入った社員は徹底的に弾圧するという実態があるようです。

この日入会をしなかった彼は、後日運転士登用試験を受けることにしたそうです。

ところが、その前に組合の幹部が彼のところに来て、「お前は運転士にさせないからな」と言われたそうです。

実際彼は、試験に落とされました。理由は身体検査で引っかかったとされていましたが、思い当たる節はなかったそうです・・・。

登用試験の合否にまで影響を与えられるとすれば、会社とJR貨物労働組合は対等に立っているというより、繋がっているというのが現実なのでしょう。この言葉が適切なのかは分かりませんが、少なくとも現場の人間は多くがそう感じていました。

 

労働組合というのは、会社と対等な立場で話合い、労働組合が働きやすい環境を作るのが本来の目的なはずです。

それがJR貨物の労働組合は、裏では会社と繋がり、同じ社員でありながら組合員以外は全員敵かのような扱いです。

労働組合同士では常に罵り合い、他労組の粗探しをして騒ぐのが日常茶飯事となっていました。

会社と向き合うはずの組合が、同じ目的を持っているはずの他の組合に矛先を向けてを潰し合っている。

他労組の若い社員なんて簡単に潰す。

労働組合の目的は同じはずなのに、あまりに不条理な現実でした。

 

結局彼一人以外は全員が名前を書き、その会場を後にすることとなりました。

最後に全員立ち上がって、「団結頑張ろう!」という掛け声をやらされました。

団結?戦い?・・・何のことだか理解もできないうちに、私たちは組織の一員にされていたのでした。

GW明けに現場へ出ていく私たちは、その後更なる厳しい現実を知ることになります・・・。

 

この話の続きはこちら。

初出勤。「使えない」~配属前から貼られたレッテル~

ストーリーを最初から読まれる場合はこちらからどうぞ。

鉄道会社で働くことへの憧れ ~将来の夢にどんな絵を描いたか?~

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