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本物の機関車で訓練する ~触ったら即死~

前回の話はこちら。

運転士養成所での生活③~拷問椅子~

退屈な研修所生活を終え、やっと家に帰れたのも束の間。今度は新しい職場で見習い乗務に向けた訓練が始まります。

 

研修所生活では起床してから出勤するまでが一つの建物の中で完結しますので、朝食を食べなければ出勤時刻ギリギリまで寝ていることも出来ました。

 

しかしこれから長く勤めることになる職場は電車で片道50分、自宅~駅と駅~会社の移動を含めると片道1時間半も掛かる通勤が必要で、職場への到着も出勤時刻ジャストとはいきませんから、日勤の朝は6時台の電車に乗らなければなりませんでした。

 

慣れない早起きに苦労し、慣れない職場で気を張り、とにかく心身ともにすり減る環境の中で新しい生活が始まりました。

 

 

現場に戻った研修生は「運転士見習い」という役職が与えられ、見習い乗務が始まれば手当も出るようになります。

 

しかし最初の2週間くらいは地上勤務を行い、座学で色々勉強したり、留置線に置かれている機関車を使って出区点検の訓練を行ったりします。

 

研修所でも実車のEF65を使った訓練がありましたが、無線やブレーキ試験の訓練が中心で、運転に関しては実践的な取り扱いをすることはほとんどありませんでした。

 

しかし、現場に戻ってからの訓練では実際にパンタグラフを上げて、マスコンを入れれば機関車が走ってしまう状態での実務的な訓練が中心で、研修所とは違い静岡の運転士同期1人との2名体勢だったこともあり緊張感が違いました。

 

機関車の機械室というのはカニ歩きをしなければ移動できないくらい通路が狭く、しかも架線から引いている高圧の電流が流れる回路が剥き出しの状態であるものですから、非常に危険な空間でした。

 

機関車は出区させる前に必ず出区点検という作業を行う必要があり、各部が正常に動作するかどうかを運転士自身がくまなくチェックします。

 

その際に高圧系の部位もチェックするのですが、新人のうちはどの部品のどの部分に高圧電流が来ているのかよく分かっていません。

 

一方、点検では各部の緩みが無いかを触ってチェックする場面もあるため、もし剥き出しの高圧回路に誤って触れてしまえば大惨事です。

 

JRの直流電化区間は電圧が1500Vあり、一方の交流区間では20000Vもの高電圧が流れています。

 

皆さんはどちらに振れた方が危険だと思いますか?

 

 

 

実は直流の1500Vの方が危険だというのです。

 

 

これは訓練で聞いたことですが、20000Vの回路に触れた場合、人体に電流が流れた衝撃で弾き飛ばされるように感電するそうです。

そのため触った瞬間回路から体が離れることとなり、一瞬の感電で済むため感電により死ぬケースは少ないとのことでした。

 

実際には、車両の屋上で感電して、弾き飛ばされた勢いで高さ3メートル以上ある車両の屋根から落ちて転落死するという事故が大半なんだとか。

 

 

一方、直流1500Vで感電した場合は弾き飛ばされることはなく、逆に筋肉が電流で硬直してしまうそうです。

 

そのため、万が一回路を握るように触ってしまった場合、その手が硬直して自分の意志で手を放すことが出来なくなってしまい、そのまま死ぬまで電流が流れ続けることになるそうです。

なので、直流で感電した方が危険だから気を付けろと、現場の訓練では教わりました。

 

それを聞いた時は、そんな危険なものを剥き出しにしておくなんておかしいだろと思いましたが、国鉄時代の設計だし、きっと保守の手間など色々考えた結果の構造なのだろうと思います。

 

 

まだ実車に触れることに慣れていなかった私は常に即死のリスクと隣り合わせで訓練することに恐怖を感じていました。

 

線路に降りると鉄道車両の大きさには圧倒されましたし、大きな車輪に手歯止めを噛ませる時も、もし転がったら人間の手など一瞬でハムのような薄さにプレスされてしまうのだろうと思うと、こんなに大きな車両が自分の手に負えるのだろうかと、一抹の不安も感じました。

 

機関車のモーターに通電するときは送風機を起動してモーターや抵抗器を冷却する状態にしなければならないのですが、その送風機の起動音がすると、何も触っていなくても機関車が動きそうで胸が高鳴りました。

 

この時期の訓練では実際に線路の上で車両を転がすことはしませんでしたが、モーターに通電し、あとはブレーキを緩めればすぐにでも機関車が動いてしまうところまでは取り扱いの練習をしましたので、自分が本当に運転士になるのだという実感が今まで以上に湧いてきました。

 

出区点検、発車前連鎖扱い、ブレーキ試験、留置手配などなど、実際の運転の場面で必要な取り扱いを一通り教わって、地上訓練を終えるといよいよ本当の見習い乗務が始まります。

 

 

今までの訓練では1ミリも機関車を動かしたことがないのに、見習い初日からいきなり本線を走る列車のハンドルを握ることになるのです。

 

それを考えると極度に緊張してしまい、初乗務の前日は全く眠れなかったのでした・・・。

 

この話の続きはこちら。

※未投稿です。

 

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