前回の話はこちら。
会社に入って最初に配属された職場でようやく人間関係も出来上がり、仕事も板についてきた頃、いきなり命じられた昇職試験の受験。
昇職試験と言っても運転士に登用するための試験であり、合格すれば今の職場を離れなければなりません。
まだまだ経験したかった仕事もあり、同僚の先輩方とももっと多くの時間を過ごしたかったのですが、配属から半年足らずで言い渡された命令でした。
だったら試験に落ちてしまえば今の職場に居続けられると思っていた私ですが、ある日隣の富士駅の駅長がやってきて、こんなことを言われました。
「お前が運転士試験に落ちたら富士駅に連れて行く。どっちにしろ吉原駅には残れない。」
どちらへ転んでも今の職場には居られないことを知りショックでした。
悩みましたが、どちらにしてもまた一から仕事を覚え、人間関係を作らなければならないのなら、運転士を目指して昇職していく方が良いだろうと思いました。
試験は静岡の職場で行われ、1日で終わりました。簡単な数学と会社の動向や仕事に関する基礎知識を問う問題、作文程度の内容だったと思います。
あまり難しくもなかったし、一応真面目に取り組んだので、無事に合格をもらうことができました。
この試験には入社同期のうち15人くらいが臨んだのですが、そのうち受かったのは私を含めて5人だけ。
「一緒に運転士を目指して頑張ろう」と励まし合っていた仲の良い同期は、ことごとく落ちてしまいました・・・。
合格した4人の同期のうち、3人は稲沢、1人が私と同じ静岡でした。
しかし静岡で唯一の運転士同期となった同僚は14歳も年上の人で、友達というより先輩という印象でしたので、これから1年以上の養成期間を共にすることに少し不安が残りました。
合格を得てから吉原駅を出るまで、約1ヵ月程度ありました。
転勤の発令日は年末の12月28日くらいだったと思います。よりによって年末年始の休みに入る前に転勤とは、とても間が悪く感じました。
駅を去るまでの約1ヵ月、もう新しい仕事を教わることもないし、今できる仕事を淡々とこなすしかありません。
たった半年あまりの在籍でしたが、この職場で作れた良い想い出があまりにも多くて、非常に名残惜しい気持ちでした。
転勤が決まってからというもの、1日1日がとても貴重に思えるようになり、最後の想い出作りといわんばかりに覚えてきた仕事や作業をこなしました。
駅構内のレール、ポイント部分に油を指す仕事があるのですが、今まで以上に入念に、一つ一つのポイントに油を差し、ヘラを使って汚れを掻き出しました。
入換作業は1回1回がとても印象に残るようになったし、日本製紙の専用線への出入りなど二度と経験出来ないだろうと思って、まばたきも惜しいくらいにその光景を目に焼き付けました。
そして駅の近くにあった焼きそば屋の焼きそば。
毎週金曜日になると職場全員が注文して食べる習慣があったのですが、それがとにかく美味しくて、この記事を書いている日から遡ればもう10年も前になるというのに、今でもその味を、そして同僚たちと一緒に駅の休憩室でテーブルを囲み、他愛もない話をしながら食べていた光景を鮮明に思い出すことが出来ます。
そこで先輩方と話した内容までは思い出せませんが、そうやって過ごせた時間こそが何よりも良い想い出になりました。
私がお伝えしたい「転勤の前にやっておいた方がいいこと」というのは、挨拶回りや身の回りの整理など、誰でも当たり前にやっている作業や手続きのことではありません。
恐らく二度と戻ってこれない今の職場で、出来る限り沢山の想い出を作っておくこと。
これが転勤が決まった時に、一番やっておいた方がいいことだと思います。
仮にあなたの今いる職場がブラックで居心地の悪い場所だったとしても、その職場で対立した同僚の顔や、口うるさい上司の声、自分の机の場所、自販機で売っていた飲み物の銘柄、オフィスの匂い、深夜まで一人で残業した時の空気感・・・。
そんな些細なことですら、何年も後に振り替えれば美化されて良い想い出に感じられるかもしれません。
長い人生の中で、自分があの場所で過ごした時代が確かに存在した。
そう思える経験をいくつも積み重ねることで、歳を取ってから振り返った時に充実した人生だったと思えるのだと考えています。
あなたが今勤めている職場にも、あなたは永遠に居られる訳ではありません。
いつか終わりが来るという事実を少しでも意識してみたら、マンネリ化した仕事に少し張り合いが出るかもしれません。
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こんにちは
とても興味深い話で一気に全部読んでしまいました。私は貨物列車の運転士になりたいのですが運転士の養成所に行くために所属の機関区です受ける入所試験の数学はどのような内容でしたか?できれば詳しく教えて下さい。
よろしくお願いします