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新入社員研修で知った真実 ~先輩「辞めるなら今だぞ。」~

前回の話はこちら。

入社式・・・の後の悲劇

就職、転職するとき、あなたは選んだ会社の求人票の中でまずどの項目を見るでしょうか?

就職先を決める指針として大きな要素となること。

それはやはり給料ではないでしょうか。

もしかしたら年間休日数の方が大事な人もいるかもしれません。

ですが休日が大事という人でも、やはり給料を無視するわけにはいかないと思います。

 

鉄道の仕事が出来れば幸せと思っていた私ですが、やはり私も給料は気になりました。

世間的にはJRというブランドイメージは非常に高いため、給料も高いのではないかと思われていることが多いです。私もそう思っている人間の一人でした。

私が試験を受けた時に求人票に書かれていた初任給は、15万円~となっていました。

短大・専門卒の初任給としては控えめですが、年間3.8カ月の賞与と、何よりJR運賃半額補助の福利厚生があったため、総じてみれば一般的な所得水準になると思いました。

しかし、入社直前にJR運賃半額補助は廃止されてしまったのは以前の記事に書いた通り。

この時点で異変に気付くべきでしたが、社会経験のない当時の私には比較対象もなく、何も見えませんでした。

 

新入社員研修が始まり、支社ビル内の研修室での座学の他、民間の研修施設に泊まり込みで基礎知識を勉強したり、お寺に泊まって修行みたいなことをする研修なども盛り込まれていました。

座学以外では、隣接する愛知機関区の見学、少し足を延ばして岐阜ターミナル駅や名古屋ターミナル駅、名古屋車両所など、愛知県内にある各職場の見学にも連れて行ってもらいました。

中でも記憶に残っているのは営業運転している貨物列車に添乗させてもらう機会があったことで、稲沢駅~西浜松駅まで、1往復を機関車の運転室に乗せてもらって運転士の仕事ぶりを見させてもらえたことです。

往路はEF200、復路はEF66-0番台でした。

初めて乗った機関車の運転室。一般客では絶対に足を踏み入れることのできない空間。

そして長い貨車を引っ張って動き出す、生きた機関車の乗り心地に、私の胸の高鳴りは最高潮でした。

こんな素晴らしい経験が出来る会社なら、絶対に定年退職まで働くことが出来る。

今日までに感じた様々な不穏な空気を一瞬で払拭し、そう確信している自分がいました。

 

ところが新入社員研修が始まって3週間ほど経つと、一つの現実を知ることとなります。

そう、初任給が支給される日がやってきたのです。

一人ずつ名前を呼ばれて手渡された給料明細はJRのコンテナのデザインが入った洒落た用紙で、切り取り線を開いて中を見れる構造になっていました。

そこに書かれた総支給額は、148000円でした。

ほぼ求人票通り。求人票に嘘はないと思いました。

しかし、その後研修を担当していた若い先輩から、現実を知らされることになります。

それは「第二基本給」と「初任給調整手当」の存在でした。

最初は良く分かりませんでしたが、支給額にこれらの要素が含まれることで、実際の基本給がもっと安いことが分かりにくくなっているそうです。

厳密なルールはよく覚えていませんが、第二基本給とは退職金の計算に含まれない基本給のことで、基本給が昇給した額のうち数十%は、退職金の計算に含めないそうです。

しかも入社時点で基本給の1割強が既に第二基本給となっていて、入社時点から既に退職金の抑制が行われているというのを後から知りました。

初任給調整手当というのは、入社年度の基本給にプラスして1~3年間支給される手当で、高卒は5000円が1年、専門卒は7000円が2年、四大卒は10000円が3年、基本給にプラスされているそうです。2年目以降は手当の額も減額され、最終的にゼロになります。

つまり求人票に書く初任給の金額を上げるために、最初だけ手当を付けて世間の一般的な給料水準と同等に見えるようにているのだと、先輩は言っていました。

 

入社3年目、勤続2年の先輩がこっそり給料明細を見せてくれました。

すると、驚くことに支給額は新入社員と3千円くらいしか変わっていなかったのです。

定期昇給で基本給が上がっても、手当が削減されてプラマイゼロの状態。これが現実なのかと思い知らされました。

研修中の宿泊施設で同じ部屋だった18歳の入社同期は、その現実を知って一言

「俺、たぶん辞めますわ・・・」

と言っていました。

彼は実際、その後3か月もしないうちに会社を去っていきました。

 

今思えば、彼の選択は堅実だったのだと思います。特段鉄道が好きでなければ同等の収入を得られる仕事は沢山あるし、若いうちに辞める方が次の選択肢が多いのは事実ですから・・・。

一方、鉄道の仕事がしたくてしょうがなかった私は、そういう現実に目を背けて働き続ける道を選んだのです。

 

最終的に6年半ほど勤務しましたが、退職時の基本給は181000円。

このとき27歳、地上職ではなく、運転士に昇職しての数字です。

入社時の基本給は141000円。6年でちょうど4万円の昇給でした。

昇職せずに定期昇給だけで進んで行った場合、大体1年で4000円くらいのペースで基本給が上がるようです。厳密には同じ職で居続けると上がり幅が小さくなっていくようですが。

私がこのまま運転士としてあと28年、55歳まで勤務していたら、単純計算で基本給は293000円といったところでしょうか。

55歳の誕生日を迎えると基本給が3割削減されるという制度もありましたので、55歳からは205100円の基本給になるというライフプランです。

 

正直、自分一人の稼ぎで家庭を持つことは難しいと思います。

会社に入って給料の仕組みが分かったら、自分が将来どれくらいの収入を得るようになるのか、一度計算してみると良いでしょう。

仕事は生活のため、家族のためにするものであり、趣味でもボランティアでもないという人が大半だと思います。

最も大切な給料の数字が自分の人生設計に見合うものかどうか冷静に判断し、その数字が適正だと分かってから初めて、その会社で頑張るという選択肢が見えてくるのではないでしょうか。

 

どんなに頑張ってもその数字が自分の欲しい結果に見合わない場合、環境を変えるなら早いほうがいいに決まっています。

その組織でどんなに頑張ったところで、自分の欲しい結果が得られる可能性は少ないからです。

 

ベンチャー企業のような今後の成長性がある会社なら事情は違いますが、歴史があって成熟しきった企業では、劇的に大きな変化は望めません。

就職先に大企業・安定企業を求める人は多いですが、そういう会社の賃金体系は本当に自分の人生設計に見合うものなのか、よく考えてから就職先、転職先を選ぶことをお勧めします。

 

この話の続きはこちら。

未修了の新入社員研修 ~お荷物社員の行方~

ストーリーを最初から読まれる場合はこちらからどうぞ。

鉄道会社で働くことへの憧れ ~将来の夢にどんな絵を描いたか?~

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